鬼っ子ちゃんの節分deおもらし
まだ16,7の純粋な少女に見える鬼子は、ひどく狼狽し辛そうであった。 美しい曲線を描くはずの眉はしかめられ、丸くて大きな瞳は今にも閉じられそうだ。そして口は力なく開かれ、そこからは断続的に小さな吐息が漏れている。
時折 立ち止まっては苦しそうに股を押さえ、身体を小刻みに震えさせる。
「ぅぅ…なんで、なんで…」
今にも泣きそうな鬼子の口から、誰に問うでもない疑問が宙に吐き出された。
事の始まりを述べると、今日という日は"節分"である。 この日 人間界では、年の数だけ豆を食べて身体が丈夫になり 風邪を引かないというならわしの他、豆は「魔滅」とも言われ、鬼に豆をぶつけることにより邪気を追い払い、一年の無病息災を願うという行事が行われるのだ。
そんな事は微塵も知らない鬼の娘。 山で遊んでいたところ、急に尿意を感じてしまった。鬼子は遊びに夢中で気が付かなかったのだが、最後に厠へ行ってから二刻(※4時間)が経っていた。 ふと見ると近くに人間の村があったので厠を借りに急いで向かったのだが、何故か人間達が家に入れてくれない。 それどころか、自分の姿を見るやいなや 容赦なく豆をぶつけてくるではないか。
慌ててその家から逃げ出し他の家へ向かうも、そこでも全く同じ仕打ちを受けてしまう。
いつもなら快く厠を貸してくれる人間がどうして…。と ひどく悲しくなった鬼子であったが、それを考えても尿意が収まるわけではないので、仕方なく近くにある別の村へと向かっていたのであった。
それから一刻、走っては立ち止まりを繰り返しているのだが、走れども走れども村は見えず。 より一層 尿意は強まり、いよいよ いつ堪えている尿が限界を超えて溢れ出してきてもおかしくない状態になってしまった。
股の前を押さえ、腰は引け、美しく柔らかな脚は内股できつく閉じられ、それでも鬼子は懸命に村を、厠を目指し走っていた。 いっその事、その辺の草むらで全てを開放してしまおうかと誘惑も何度か訪れたが、鬼の娘にも羞恥心はあるらしく その選択はしなかった。
更に半刻が過ぎた時、ようやく村の明かりが遠くの方に見えた。 ほっと胸を撫で下ろすが、気がゆるんだ瞬間、我慢していた物が少量 滲み出てしまい、慌てて力を込め直す。
腰切れの下に履いてある布が湿ってしまったのを感じ、鬼子は涙がこぼれそうになった。
しかし ようやく村に辿り着いた、泣くよりも先ずは兎に角 厠を借りるのが先だ、と 鬼子は村の入り口に一番 近い家の前に立ち呼びかけ、懇願する。
「あ、あの…お、お便所を…」
鬼子がか弱く切ない声で以て喋っている途中だが、人間の童(わらべ)は言葉を遮り、
「おにはーそとっ!」
と 豆を投げつけてきた。やはりさっきの村と全く同じ反応である。 もう何が何だかわからず、鬼子はひどく混乱していた。
その家を後にし、別の家を訪ねても同じ事の繰り返しである。
その内、鬼子はとうとう とある家の前で動けなくなってしまった。少しでも身体を動かそうものなら、今まで耐えに耐え 腹に溜まっている恥ずかしき液体が、痛い程に強く閉じられている一筋の秘裂から こんこんと吹き出てしまうのだ。
鬼子は小さな身体を小刻みに震わせ、もう疲れ果てているであろう太ももをきつく交差させ、今まで以上の渾身の力で前を押さえながら、人間達に頼み,叫び続ける。
「お願い…です…!お便所を…お便所を貸し、てぇっ…」
「おには~そと!」
「もう…我慢…できなっ、いん…です…! おしっこが…もれちゃ…うぅぅ…!」
おには~そと!」
「なんで…ぐすっ…うぅ…ひっく……」
鬼子の潤んだ瞳から涙が溢れた瞬間と同時に…鬼子の心も折れた。
股を、太ももを、ふくらはぎを足を温かい液体が流れ伝い広がっていく。 くぐもった水流の音が辺りに響いていく。 止まらない。 鬼子は放心状態で 最早 何も考えられていないが、いつまで出続けるのかと思うくらい、それは永く永く出続けた…。
やがて尿のせせらぎは止み、鬼子の下には大きな水たまりができ、更に独特の臭いが辺りを包んでいた。 暫くは呆気にとられていた人間の童達であったが、時は動き出した。
次々と鬼子に罵声や嘲笑の声が容赦なくぶつけられた。 ある者は鼻をつまみ、又ある者は まるで自分の武勇伝を誇っているかの様に騒ぎ立てた。
ただでさえおもらしをしてしまって酷く傷心しているのに そんな心の無い行動をされ、鬼子はわんわんと童の様に泣き叫んだ。 だが泣いて喚く程、周りの童共は狂喜した。
その内に鬼子は耐えられなくなり、濡れた身体と衣服を纏ったままその場から何処へ向かうでもなく駆け出した。
遠くではまだ笑い声が聞こえてくる。 離れても耳に笑い声が残っている。 鬼子はいつまでもいつまでも泣きながら、やがて歩き続けた。 "なんで…どうして……"という疑問だけが、鬼子の胸に消えない傷として深く残った。
いつしか、月は雲に隠れて見えなくなってしまっていた―。
そしてそれ以降、鬼子が人間の前に姿を現す事は無くなったのだった。
※※※
「えー、というわけで私達の○○県××市の地域では、節分の時は 鬼の格好をした女の子に豆をぶつけて、更にその女の子がおもらしをすることで、魔を祓う という独特の伝統が伝わったとされているわ。 皆、ここテストに出るからしっかり覚えておきなさいね」
「迷惑なコトしてくれたわよねー」
まったくである。
●2月に描けなかった、節分でのおもらしです。 最初はとりあえず鬼っ子ちゃんのおもらしイラストだけで、ストーリーは簡単に添えるだけの予定だったんですが…気が付いたらSSっぽくなってました( ̄□ ̄;) な…何を言ってるのか わからねーと思うが…(ry
実は節分の鬼っ子ちゃんおもらしを描くのは、なんとPoirotの小説館のお絵かきBBSで描いた時以来なんですねー(笑) 実に3年振りとなります(’’ ) こういった季節物も、描いていけたらいいなぁって思います。
そういえば、作中での"鬼子"は、鬼の子供や彼女という意味で使ってたんですが、そうしたら途中からなんだかもう名前みたいになってたり…。SSって難しいです(^-^;)
余談ですが…もしかしたら"いいおしいこ な入学式"みたいに、後から本文の加筆・修正や挿絵や表紙絵の追加があったりするかもしれません( ̄- ̄*)
いいおしいこ な入学式→http://natuhikari.blog.2nt.com/blog-category-9.html